ともかくもあなたまかせの年の暮 一茶

誰も見ることの出来ない刻の流れは

音も立てず、気配も感じさせず

それでもとうとうと流れていく

気がつけば一年の流れが尽きようとしている

向こう側に渡るためにその流れの瀬をじっと探す

それを古人たちは年の瀬と呼んだのだろう

年の瀬だからと旅を止める理由にはならないのが

旅を日常にしてしまった旅人の生きる道なのですよ、

耳を済ませると微かに波の音が聞こえる

坂道を登りきると目の前に海が広がっていた、

寄せては返す波は、刻の流れに比べれば判りやすいものですね

若い父親が凧を飛ばしている

行ったきり留まることをしない刻は

人の幸不幸を感知しないのですよ。

それでもじっと佇んでみる

微かに香る磯の臭い

たなびく煙は人が生きている証

冷たい風が頬を叩く

どんなに刻が流れようと眼で鼻で皮膚で感じるこの感覚こそ

今生きていることの紛れも無い事実

湊川はそのまま海へと注いでいる

刻の川もいつかはどこかの海へ流れ込んで

消えてしまうのだろうか

「ビューッ!」

釣竿のしなる音が静寂を破った

我に帰ると、波の音は聞こえている

陸橋を館山行きの列車が

「ガタン ゴトン、ガタン ゴトン」

通り抜けていく

まるで刻の川を突き抜けるように・・・