今年も夏を告げる佐原囃子が町内に流れ始めた、

佐原本宿八坂神社祇園祭 本祭の始まりです。

年番と呼ばれる町内は、祭り行事について

一切を取り仕切る、

その期間は三年、

今年は下仲町から上仲町への年番引継ぎの年、

引継ぎの行事がある年が「本祭」、

それ以外は「例祭」となるのです。

仕事を片付けると、

何とか 山車年番引継ぎ式 に間に合うようにと

祈りながら佐原へ向かった。

年番の下仲町を先頭に下仲町・浜宿・八日市場・

本川岸・荒久・船戸・仁井宿・田宿・寺宿の10台の

山車が佐原街道にに勢ぞろいしている。

夕暮れの薄明かりの中で丁度引継ぎ式が始まった、

当役長が各町内へ挨拶に廻る、そこで演じられるのが

 砂切り なのです。

これを聞かずに 佐原囃子は始まらない、

提灯を高々と掲げる中で、一本の笛による 砂切り が

強くまた優しく暮れなずむ空へと響き渡る。

通し砂切りの始りです。

下座連の笛の名手達の一番の見せどころ、

笛に続いて太鼓が、すり鉦が調子を刻む、

各下座連によって、早いテンポで押し切り通すか

と思えば、ゆったりとした調子で演じる下座あり、

その微妙な違いを聞き逃すものかと、みんな固唾を呑んで

聞き耳を立てるのです。

わずかな時間の 砂切り が終わるたびに拍手と歓声があがる、

「○○の町内がよかったな」

みんな夫々の贔屓の下座連の 砂切り に真剣に聞き耳を

立てるさまは佐原囃子の一番の醍醐味なのです。

演ずる下座連も真剣なら、聞く聴衆も真剣なのです。

佐原祭りの真髄を今年は味わうことができました。

さて、年番引継ぎ行事が無事終えると、

辺りは夜の帳が覆い始めます、

提灯に灯が点り、若衆たちの掛け声と共に

山車の氏子区内の巡行が始まった。

町内組織は昔からの仕来りが残されており、

区長(襟が白)、古役(襟が青)、当役(襟が赤)、

若衆頭を筆頭とする若衆によって全ての山車の運行が

行われていくのです。

この組織が無ければ祭りはただの乱痴気騒ぎで

終わってしまうでしょう。

祭りには個人主義は相容れないのです、

もし、個人主義が罷り通っていたら、

祭りは簡単に終わりを告げてしまうでしょうね、

その祭りを三百年も続けている町の凄さを肌で

感じられるからこそ、

毎年、この町を訪ねてしまうのです。

あの大震災で佐原も被災を受けてしまいました、

あれから六年四ヶ月です、

崩れてしまった蔵は見事に再建され、祭りに重厚な景観を

与えています、

そして祭りを楽しむ人々の祭りに向ける気構えもまた変化している

気が致します。

月日とは時には残酷と想われても、

人々の前を向いて生きていく覚悟の前では

優しさを表すものかもしれません、

随分永い間佐原の祭りを観てまいりましたが、

はっきり代わったことがありました。

「祭りは騒ぐもの」から「祭りはゆったりと楽しむもの」へと

明らかに変わっています。

こんなに静かで情緒のある佐原の祭りは初めてかもしれません、

災害が町の人々の意識を変えてしまったとしたら、それは

この町の歴史がひとつ増えたということかもしれませんね。

夜空に山車の灯りだけが 希望のように輝いていた

祭り旅の途中のことでございます。

佐原本宿 祇園祭り にて

(2017年夏を思い出しながら・・・)