『行こか祝町 帰ろか湊 ここが思案の 橋の上』

茨城県の民謡『磯節』発祥の地 大洗には千年前から

祀られている神様がおりましてね、

日頃の怠惰な旅の無事を、何とか守っていただこうと

ムシノイイお願いにやってまいりました、

那珂湊と大洗を分ける那珂川にかかる開門橋の上で 

磯節の台詞をひと唸り、懐かしい大洗は祝町でございます。

そういえば前回お邪魔したのは秋の 『あんこう祭り』

の時でしたね。

あんこう鍋の美味さに、土産にしようと立ち寄った魚屋で、

すぐに食べられるように吊るし切りをお願いしておいて、

町をぶらついているうちに迷子になりまして、その魚屋が

わからなくなっちまいましてね、

迷子のオジサンはあっちへうろうろこっちへへろへろ

やっとこさっとこたどり着けば、店のオヤジさんが

「店が閉められねーよ」

と渋い顔、散々謝って持ち帰ったそのあんこうは絶品で

ありましたね。

そうそう、この店でしたよ、一度迷っておくと、次は

すんなりこられるものですよ、

旅は失敗や寄り道に楽しみが隠されているのでございますよ。

「磯 節」

(ハーサイショネ)

磯で名所は   (ハーサイショネ) 

松が見えます ほのぼのと 

(松がネ)

見えますイソ ほのぼのと

やってきたのは磯節に 大洗様よ と歌われる 大洗磯前神社、

御祭神は 大己貴命 少彦名命、

 福徳円満、家内安全、商売繁盛、

 農業、漁業、知徳剛健の神様なのでありますよ。

1150年の遥けき昔、大洗の磯前に人々を救うために神が現れたという、

そのご利益は悠久の刻を越え、現代にも信仰されているのですね。

本殿へ向かうと、若い二人が手を取り合って参拝に訪れて

おりましてね、

「あのさ、二回頭さげて、二回拍手して

 願い事をするの、  最後にもう一回頭さげるのよ」

どうやら女性の方が主導権を握っているらしい、

それにしても長い願い事でした、そんなに沢山お願いして、

最初の方は神様忘れてしまわないか心配になりましたよ。

待っているおじさんの姿に気づいた二人は、

「ああ、どうもスイマセン!」

今時の若者にしては礼儀をわきまえていて清々しい二人、

「きっと叶いますよ」と声をかけると

嬉しそうに帰っていった。

神様の霊験はあらたかですね。

アタシは手短に、旅の無事をお願いして境内を散策すれば、

本殿の奥にある末社にびっくり

本殿向かって右横の末社には

大神宮(天照皇大神)

静神社(建葉槌命 手力雄命 高皇産霊尊 思兼神)

水天宮(天御中主神 安徳天皇 建礼門院二位尼)

(本殿向かって左横の末社)には

大杉神社:大物主命

水神社:罔象女命

八幡宮:玉依比売命・大帯姫命・応神天皇

もう名うての大物神がずらり

これだけお揃いであれば、大抵のことは叶えて下さるに違いないと

思わず手を合わせておりました。

参拝を終えて階段をおり始めると舌の根も乾かぬうちに

早速、粋な磯節の台詞が口をついてしまいました、

 当たって砕けて 別れてみたが 未練でまた逢う 岩と波

 (未練でネ)また逢うイソ 岩と波

 沖の瀬の瀬の 瀬の瀬の鮑 主さんが取らなきゃ 誰が取る

 (主さんがネ)取らなきゃイソ 誰が取る

思わず口を押さえて、神様に聴かれなかったか辺りを見回す

旅の途中のこと・・・