たしか八年くらい前だったか、根津神社 御遷座300年大祭が

行われた時に、三基の本社神輿を六〇〇人の氏子が古式装束を

まとって、行列を整え揃って氏子中を巡行したことがありました。

多分、あと百年くらいしないと三基の本社神輿が揃うことは

無いでしょうが、

今年は、四年ごとにその三基の神輿のうち一基が出輿する

本祭りなんです。

朝から詰め掛けてこの目で出輿のさまをしっかりと見つめて

まいりました。

途中は、仕事場に戻り、再び根津神社へ、

どうしても還御を見届けたかったのです、だって次は

四年後ですよ、

若い時なら四年くらいどうってことはありませんが、

古希を越えると四年後どころか明日もわからなく

なるのですからね。

朝の清々しい気分とは異なり、境内は人で溢れかえっておりますよ、

七時間もの長い時間、子供たちが曳く猿田彦の山車(この山車も

遷座三百年大祭の時に修復したものなのです)が戻ってまいりました。

「ごくろうさま、よくがんばったね」

とあちこちから声がかかります。

その後ろからは供奉人たちが元気に戻ってまいります、

思わず拍手がわきあがるのです。

宮司さん、神職、少し日焼けした顔が長丁場の神幸を

物語っているようです、

あの可愛い巫女さんたちも無事戻ってきました、

みんな大役を務めてほっとした気持ちが笑顔に表れていますね、

さあ、本社神輿が戻ってきました、

台車に乗せられての巡行ですので肩に食い込むことは

ありませんが、それでも七時間も歩いてきたのですから

相当の疲れがあったことでしょうが、

待ち構えていた人々から歓声と拍手に迎えられ、

最後の力をふりしぼって無事に唐門前にご到着いたしました。

宮司による神事が行われ、神幸祭に係わった皆さんに

感謝と御礼の言葉が伝えられると、

いよいよ本社神輿の神輿庫への宮入りが残るだけと

なりました。

影で支えていた祭友會さんにより、神輿の飾り物が

手際よくはずされていく、

担ぎ棒が抜かれると、それは神輿の中を貫通していないのですね、

ようするに本社神輿は台車に乗せられて巡行していくので

担ぎ棒はあくまでも飾りだったのです。

飾紐も解かれ、紐房もはずされいよいよ神輿庫へ運ばれるものと

思っておりました、しかし、本社神輿に今度は神輿を貫く担ぎ棒が

差し込まれたのです。

「そうか、台車から下ろすには担ぎ棒が無くては動かせないもの」

と見ていると、再び飾紐が結ばれ、台車から下ろされると、

なんと、祭友會の面々が本社神輿を担ぎ始めるではないですか、

そしてその瞬間を待っていたように、松本源之助社中の祭囃子が

うなりをあげる、

ああ、その担ぎ振りのなんと素晴らしいことか、

神と一体になった魂がほとばしるような見事な神輿振りに

声も出ないほど感動してしまいましたよ。

唐門と楼門の間を往復しただけのほんの短い時間でしたが

本物の神輿振りを見せていただきました。

最後まで残っていた者だけが、

神と人が一体に成り得た瞬間に立ち会えたのです。

やがて、神輿は唐門を無事潜り、神輿庫へ、

見事な宮入りでございました。

今度は本当に二天棒がはずされ、神輿は静かに神輿庫に治まりました。

この三之宮神輿の姿を見られるのは、十二年後なんですね、

随分沢山の祭りを見て参りましたが、こんなに素晴らしい神輿振りを

見せていただけたことに心からの感謝を申し上げます。

ああ、祭りとはなんと奥の深いことなのでしょうか・・・

(2014年根津神社大祭)