冬が陰だとすれば、夏は陽であると考えたのは

中国の陰陽五行の考え方、その陰陽が和したのは

もしかしたらお彼岸の頃なのではないだろうか、

なんてことを、真面目に考えたのは、浅草の聖地に

足を踏み入れたからかもしれない。

植物にも陰陽が交差した時に新たな芽を出すと

教えてくださったのは旅の途中で出会った住職でした、

「桜咲いたかもしれない・・・」、

浅草の伝法院は、誰でも入れるという身近なところでは

ありませんでね、アタシのように毎日うろうろしているからと

特別に入場をいただけるなんてわけにもいかない神聖な

とこなんですよ。

「お彼岸頃になると伝法院の桜が満開になる」

という噂は聞いておりましたが、何しろ見たくても見られない

というのは、ますます想いを募らせるばかり、まるで恋と

同じですよ。

「大絵馬寺宝展と庭園拝観」

六年ほど前の秋の本堂落慶50周年大開帳が行われた時は、

桜とは無縁の時期でしたので諦めておりましたら、春にも

「大絵馬寺宝展と庭園拝観」が再び行われると聞いて

首を長くして待ちわびておりましたら、あの大震災発生!

これは中止かもしれないと諦めておりましたら、

「やります」とのご返事、初日を待って飛んでまいりました、

「入場料は東北関東大震災の義援金」となれば、なおさら

であります。さすがに浅草寺、和気満つるではありませんか。

五重塔の聳える絵馬堂には、徳川将軍家が奉納した

神馬の絵馬をはじめ芸術作品にまで昇華した大絵馬が

飾られており、

かつてのこの国の人々がいかに平穏無事を願ったかが

迫ってくるようでした。

はやるこころを落ち着かせ小堀遠州築庭と伝わる庭園に

足を踏み入れる、

あの喧騒の浅草が嘘のような静謐な空間に出るのは感嘆の

ため息ばかり、

(シナミザクラ)

本坊でお茶をいただくと、目の前に桜、それも満開ではないですか、

もしかしたら、シナミザクラかもしれないとお尋ねすると、

「何と言う種類かはわかりませんが、実のなる桜でして

 修行の際はよくその実をいただきました」

とのこと、

これは、シナミザクラですよ。

まさか今年のお花見を、この伝法院で出来るとは

何と幸せなことでしょうか。

和気というのは、あの「和をもって貴しと為し」の

和だとばかり想っておりましたが、

調和をもたらす大切なものだと思い至りました。

陰陽の調和したしたところに平和があること、

見失ってしまった人の心を取り戻すのも、この和気あればこそ

なのかもしれない、そのへたり込んでしまったひとびとを

助け起すのも人の和気、桜が咲き始め、人のこころに

活力をもたらすのも、目に見えない桜の和気、

そう信じられた秘園でのひとときでした。

記憶の中から現れた 震災後二週間目、

平成11年3月26日に記した浅草桜でございます。