(十八代中村勘三郎丈の鼠小僧が見下ろし伝法院通り)

今年の二之午は浅草千束稲荷の初午でしたので

お参りに伺いました、昔は江戸の初午には地口行燈を奉納する

のが当たり前だったのですが、今やその地口行燈も絶滅寸前、

ああ、地口行燈って何だとおっしゃるのですか、

地口とは、江戸っ子の大好きな駄洒落のことでして、

発音が似た言葉を並べた一種の言葉遊びなんですよ、

この駄洒落に絵えをつけて行燈にしたのが地口行燈というわけで、

主にお稲荷さんの縁日(初午)にはみんなこぞって奉納したのですよ。

実は浅草には、火防・盗難除けの守護神として鎮護堂がまつられて

おりましてね、

こちらはおキツネさまではなく、お狸さまをまつっておりまして、

そんなに古い話ではありませんで、明治の初めに、

浅草寺中興第17世貫首 唯我韶舜大僧正様が

夢告により境内に棲む狸を「鎮護大使者」として、

伝法院の守護にまつったもので、毎年3月17日に「鎮護大使者御祭礼」が

今でも行われているのです。

その縁日にはやはり地口行燈が飾られていたらしいのです、

現在は、ご縁日だけではなく、一年中伝法院通りの両側に

沢山の地口行燈が飾られているのですよ。

散歩の途中で、その地口行燈を見上げながら、

思わず噴出してしまうなんていうのは、実にのどかな風情で

ありますな。

そろそろ夕暮れが近づくと、ほら行燈に灯りがともりますよ、

足を止めてちょいと休憩を兼ねてひとつひとう眺めてみましょうか、

『ゑびすだいこくう』 (恵比寿大黒)の洒落ですな、

この地口行燈が掲げられているのが、天ぷらの大黒屋さんの前、

どうです、洒落が二重に利いてますでしょ。

『狸へかえす観音経』 (魂返す、反魂香)

やっぱり鎮護堂(お狸さま)の前は当然コレでしょう。

『はねがはたきの世の中じゃ』 (金がかたきの世の中)

絵がおっとりしていていいでしょ、

なまじ金なんか貯めるとロクナコトにはならないからね、

ヘタすリャ命取られますぜ、いつもニコニコしてましょうよ。

『とんでゆに入る夏のぶし』 (飛んで火に入る夏の虫)

このバカバカしさがいいでしょ、

近頃、何でも白黒付けたがる御仁が増えちゃいませんかね、

正義の味方みたいな顔で、他人を罵倒するアナタ、

地口でも眺めて気を落ち着かせてくださいましよ。

浅草はいいですな、散歩しながらニコニコできるのですからね、