アタシの生活の中で滅多に見ることの無いのがTV、
そりゃそうですよ、毎日何処かの町をほっつき歩いて
いるのですから、家に帰れば、風呂に入ってバタン キュウ
実に健康的な毎日を送っているわけでTVなんぞ見る余裕なんて
ありませんですよ。
それがある日、鬼姫様がニコニコしながら楽しそうに見ていた
のが「吉田類の酒場放浪記」、覗いてみると
これがまたとてつもなく面白いのですよ、
路地裏に灯る赤提灯に誘われてふらりと暖簾をくぐれば
其処は呑兵衛の聖地、吉田類さんが居合わせたお客とただ酒を
呑み交わすというだけなのですが、何しろ酒が一滴も呑めない
アタシにとってはそこは禁足地なのですよ。
呑めないアタシでも、町の酒場が集まる路地裏は愛して
やまない場所なんですよ、
店の立ち並ぶ路地には庶民の哀歓と切なさがそこら中に
こびり付いているんですよ。
そりゃ、人生長くやってれば、その辺の哀歓は十分感じることが
出来ますが、肝心の店の中の様子を見ることができないのです。
だいたい酒場というのはその店構え、入り口の暖簾を見ただけで
その店の主の様子まで想像はできますよ、でもね、下戸のオヤジ
なんてものは、其の中にまぎれて、
「ラッシャイ、何になさいますか」
とひとことで、こっちは詰まっちまうのですよ、
まさか、いきなり
「ウーロン茶!」
なんて浅草っ子が言えますかってんだ。
だから、入ってみたい店があると、呑兵衛の友人を引っ張って
いって、そいつに呑む方は任せて、こちらはもっぱら旨そうな
肴を味わうわけですよ。
仕事の帰りにふらりと寄った路地裏、ひとりじゃ入れぬ呑兵衛の聖地
「弱ったな、腹も空いてるしな」
アタシの少ない経験でもね、美味しいモノってのはだいたい酒と一緒に
あるわけで、渋茶すすりながら旨いモノにはありつけないように
この国じゃ出来てるのでありますよ。
とある一軒の暖簾を掻き分け、下戸にはこれだけでも勇気がいるのですよ、
「ラッシャイ、おひとりで、何になさいますか」
「と・と・とりあえずビールを・・・」
ああ、何時かはいってみたかった夢のフレーズ、
運ばれてきたのは、ギンギンに冷えたビール、
「あのね、何か見繕ってくれないかね」
テカテカした顔の大将が
「それじゃ おまかせで」
「ところで大将ビールは・・」
「ヘイ 大好物で」
しめた、
「それじゃ、ぐいっとやってよ」
とすかさずビールを注ぐと
「ゴクゴク」とノドを鳴らして呑み干した、
いや、呑みっぷりもプロですな、
「だんなもおひとつ」
「今日は、医者から止められてるからこのビール飲み干してよ」
と、難関のビールを大将に預けることに成功、
やっとありついたお任せ料理の旨いこと、
なるほど、呑兵衛とはこんな天国みたいな場所を密かに持って
いたのですよ。
そうか、これからはこの手を使えば、アタシでも酒場放浪記が
できるかもね・・・
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