「冷ゆることの至りて甚だしきときなれば也」(暦便覧)

今日から二十四節季の大寒であります。

旧暦で作っていた暦の大寒に季節の方が合わせてくれたのか

朝布団から出るのに勇気がいるほどの寒さに、

「そうか 大寒なんだ!」

と呟いておりましたよ。

しかし、季節がどう変化しようとも変わらないのが

へそ曲がりオヤジの性格というもの、

一歩前へ歩き出せば震え上がる寒さの中、

「よーし、寒風のあの海辺に行くぞ」

とハンドルを握り締めるのでありました。

大寒といえども、夕暮れは確実に遅くなっているんですね、

まだ日没までは時間があると岸壁に佇めば、

身体ごと運ばれそうな烈風じゃありませんか、

寒さを通り越して、顔が痛いくらいですよ、

まるで真冬の北陸の海のように波が次から次と押し寄せてくる、

猟師が一番恐れる真冬の西風がまるで暴力のような凄まじい

勢いで吹き付けてくる。

海は寒風に翻弄されるまま、何度も何度も盛り上がった波を

辺りかまわず叩きつけてくる。

波しぶきが飛び散る度に、身体中に降りかかる、

漁船は港に繋がれたまま、」かもめたちが、その風の中を

餌を求めて旋回している、

「生きるとは凄まじきかな」

どれほど佇んでいたのだろうか、手も身体も固まってしまったみたい、

日差しはあっても、熱を寒風が剥ぎ取ってしまう。

風の通り道を避けてフェリー乗り場に来てみると、

汽笛を鳴らして出航していったばかり、

さすがの大型船も大波に揺れながら対岸を目指していった、

「もしかしたら、次は欠航になるかもしれないな」

海を渡るつもりだったが、諦めてガラス張りのレストランへ避難する。

室内はまるで温室である、

コートを脱いで熱い珈琲をすする、

身体の中を熱い液体が通り過ぎる、

暮れていく海を眺めながら、急に思い出に耽り始めていたのは

熱い珈琲のせいだろうか、

還暦から今年でちょうど十年か、

そういえば、大寒を迎えると必ず旅を続けていたことを

記憶の中から曳きづりだしていた。

そのほとんどを一人旅で過ごしていたんですよ、

酒も呑まず、たばこも吸わず、囲碁将棋にも目もくれず

暇さえあれば、旅に身を置き気ままに歩き続けたその日々に

人生とは何かを思い描くのでありますな。

独りで歩くということは

寂しいことではない

独りでいるから自然に連れが出来る、

中には友ができることさえある、

寂寥のないところには詩も愛もない

しみじみとモノを味わうために

噛み締めるために一人旅がいい

どこかで聞いたことのある言葉に

「素白先生の言葉だ!」

今年も、素白先生の本を片手に一人旅を続けてみるかな、

この冷たい大寒風に負けぬ気構えで・・・