「北風小僧の寒太郎」

作詞:井出隆夫・作曲:福田和禾子

 北風小僧の寒太郎
 
 今年も町までやってきた

 ヒューン ヒューン

 ヒュルルンルンルンルン

 冬でござんす
 
 ヒュルルルルルルン

つい口から漏れたのはこの歌でした、

大寒も過ぎてまもなく節分、そして春がやってくる、

其の前に一度北風小僧の寒太郎に会いにいこうとやってきたのは

空っ風をまともに受ける関東平野のど真ん中ですよ。

桜の花も一度寒の寒さを体験しないと美しい花は咲かないと

いうじゃないですか、人間だって寒中の寒さを乗り越えなくては

いい人生は来ないのだ! と相変わらず単純な脳細胞は

びゅうびゅう吹き付けてくる見渡す限りの平地の真中に

佇んでいるのです。

 北風小僧の寒太郎

 口笛吹き吹き一人旅

 ヒューン ヒューン

 ヒュルルンルンルンルン

 寒うござんす

 ヒュルルルルルルン

アタシはこの歌の二番が大好きでね、

「♪口笛吹き吹き一人旅」

を何度も繰り返しながら風に向かって歩き出す。

意外な近さで右に筑波山、真中に赤城山、左には秩父の山並み、

筑波颪と赤城颪が吹きつけてくるわけで、さすがに歌を唄いながら

歩いてももう身体が冷え切ってしまいました。

こういう時に迎えてくださるのが昔からの社の杜ですよ、

菖蒲神社とは面白い名前ですね、

昔は左義長をやっていたと案内板にはある、境内をみると

正月飾りを燃やした跡はあるが、トタン板に囲まれた部分だけで

行っているらしい。

ぼんやりと見つめていると、後ろから声がかかった、

「あの正月飾りを持ってきたのですがどうしたらいいですかね」

見れば手に輪飾りを三つ、誰も居ない境内にぼんやり立っていたアタシを

氏子と間違えたのかもしれません。

「お賽銭あげて、そこのトタンに囲まれたところへ置いていかれたら・・・」

その青年は、本殿で手を合わせると、その輪飾りをそっと置いていった。

やれやれこれも一期一会というものか ともう一度辺りを見渡せば

大きな藤の木が枯れ木の姿で枝を広げている。

そうか、以前この菖蒲神社を訪ねていることを

思い出しました、

あの時は、房を垂らした藤の花に見とれていたんですよ、

同じ藤の木でも寒風の中で見つめているととても同じとは

思えないものですよ。

この遥かに広がる大地に古人たちは一本の運河を通したという。

その水は大地を潤しこの広大な大地を穀倉地に変えた、

さらにその運河は輸送手段としてこの地に繁栄をもたらしたという。

ここ菖蒲という町もかつて水運で栄えた町だったんですね。

今は想像すらできないのどかな気配だけが流れていた旅の途中です。