暗い眼をしたその女(ひと)は

瞬きもせず海を見つめていた

「ここがふるさとなんです」

それ以上は聞かないでと背中が語っていた

振り向いたその女は

涙を落とさぬように空を見つめた

「だれもいないふるさとなんです」

コートの襟で隠したイヤリングが風に揺れた

会わずに別かれた父と母の顔が

風の中に揺れている

「二度と会えない思いをどうすればいいのですか」

「そっと手を合わせるだけだよ、

  みんなそうして生きていくのさ」

「駄目だと判っているの」

そう云うと、その女は電話ボックスのダイヤルを廻した

受話器を耳に当てながら

ボロボロと泣いていた

耳元を風が吹き抜けていった・・・