(胡録神社本殿)

「明日が本祭りですから是非いらしてください」

と帰りがけに声をかけてくださった皆さんとお別れして

雨の夜道をイギリス人の教授と歩いた畑道を本日も

大橋胡録神社へ向かって歩いています。

昨夜の雨が嘘のように晴れあがったのは昨夜の氏子の

皆さんの祈りが通じたのかもしれません、

夕闇の空には煌々と月のあかり、

「そうだ今宵は満月じゃないか」

満月のひかりを浴びて古式豊かな獅子舞を見せて

いただくのも神のご利益というものかもしれませんですよ。

「この獅子舞は室内だとその魅力の半分も

見せられないですよ、明日の本祭りを是非見てください」

世話役さんの言葉が再び足を向かわせたに違いありません。

今でも10月29日という祭り日を頑なに守り続けている意思が

きっとこの貴重な獅子舞を残し続けているにちがいありません。

裸電球が照らし出す神社の境内には沢山の氏子のみなさんが

集まっています。

中には顔見知りの知人がいたりして、とても親近感の湧く

雰囲気が出来上がっています。

舞台は、本殿前に敷き詰められた茣蓙の上です。

どうやらその二間四方が結界ということなのでしょう、

みんなの目が本殿に向けられている、

笛の音が響くと、夕べの道化役の猿が先駆け役で

三匹の獅子を引き連れて現れる、

謡い手と四人の笛が座に着くと、いよいよ獅子舞が

始まった。

夕べ世話役さんから聞いていたのは、

29日は「神前の御子舞」と呼ばれ、

神社の建物の立派ななことを褒め称え、

さらにその建物を建てた大工の腕の良さを讃える舞い

の意味があるとお聞きしておりましたが、

どうやら、五穀豊穣に感謝し、子孫繁栄を祈る姿が

色濃く表現されているように感じましたね。

昨夜は雨で観客も少なかったため、猿の大らかな

性の表現に目を見張る想いでしたが、今宵は大勢の

観客のため、少し抑え気味で、

どちらかといえば子供達を喜ばす道化ぶりが目立つ

ものでした、

そのかわり、猿の動きは室内と異なり、観客の中に

飛び込んだり、境内の中を走り廻ったりと

八面六臂の大活躍に子供達がまるで

ヒーローを求めるように後ろを追いかける様がなんとも

楽しげでありました。

視線を獅子舞に戻すと、いよいよ「雌獅子かくし」が

始まるのです。

花笠に囲まれてその姿が見えなくなると、残された

二匹の雄獅子がその周りを雌獅子を求めて舞い踊る様が

なんとも物悲しく感じるのです。

やがて再び姿を現した雌獅子の姿に、喜びを爆発させるように

歓喜の舞です、

これは、良縁祈願と子孫繁栄を願った先人たちが

最も伝えたかったことかもしれません、

人間は一人では生きていけないことを切々と

訴えてくるようで

胸がいっぱいになりましたよ。

全ての舞が終わると、再び猿を先導に、本殿の中へと

消えていく獅子の姿、

まるで、舞台劇を見ているようでした。

舞が終わっても誰も帰る人はおりません。

そう、これからお菓子やみかんが投げられるのです、

それはすべて神様からの贈り物なんです。

その中に、たったひとつ小さな木の札が投げ込まれる、

これを手にした人は、必ず良縁に恵まれるという、

伸ばした手に、お菓子やみかんが触った、

中には袋を用意している人あり、

アタシも夢中で拾っては子供達に渡しましたよ。

幸運がありますようにと願いを込めてね。

空を見上げると煌々と満月、

なんだかニコニコ笑っているように感じていた

祭り旅の途中でございます。