「ゴットン ゴットン!」
花やしきのジェットコースターが動き出した、
「おや、まだ客がいるのか・・・」
最高部へ登り始めたジェットコースターの乗客は一番前の車両に
一組のカップルがシートベルトに押さえつけられて乗っている。
その時ですよ、まるで消火栓から噴出したかと思うほどの雨が・・・
アタシはあわてて軒下へ、振り向くとその土砂降りの中をジェットコースター
は一気に加速し始めていた。
もう最後まで止まらないその先頭のシートで二人はずぶ濡れになりながら
悲鳴を上げているらしいがその声は雨音にかき消されている。
「やんなっちゃうな!」
最後まで見届けたオジサンは雨の中を
そのまま歩くのであります。
六区の小路りを傘のないカップルが歩いてくる。
すれ違い様に男が叫んだ
「やんなっちゃうな!」
たぬき横丁で立ち止まると、新しい店に灯りが点っている、
「はて、見かけぬ店だが」
毎日見ている町なのに、突然店が変わっても気づかないものでしてね、
まして其処が更地にでもなろうものなら、
「あれ、ここにあったのは何の店だったかな」
まあ、人間の意識なんてたいていはそんなもので、見ているようで
見ちゃいないのですよ、
「やんなっちゃうな!」
どうやらカレー専門店、
話好きらしいマスターとすっかり気が合ってしまい、
カレーの味の話から旅の話へ、他に客の居ないのを確かめて
一時間も話し込んじまいましたよ。
この店の味、気に入りまし。
「旨かったよ、またくるからね」
と少し小降りになった町を歩き出せば
まるで待っていたかのように再びの土砂降り
とうとう町から人の姿が消えてしまいました。
店の中では店主たちがきっと呟いているんでしょうね
「やんなっちゃうな!」と・・・
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