祭りの三日間はまるではるか昔の時代を彷徨っていた気分でした、

羽織袴の人々が行き交い、祭り半纏が歓声を上げ、祭囃子が

響き渡っている、それは舞台の物語ではなく、すべてが

本物の人が群れ集う時代劇なんです。

まだ頭の中で祭囃子が鳴り響いている夜遅く普段に戻ってまいりました。

一晩眠って目が覚めれば、そこは神無月の秋です。

溜まっていた仕事を片付け、街に出ればもう夜の帳が覆いつくしておりますよ。

同じ国にいることが信じられないほどの近代都市東京、

あの祭りの人々が本当の日本人なのか、

それとも目の前の忙しげに行き交う人々が本当の日本人なのか・・・

祭りの夜の帳の降りた夜陰に輝いていたのは、ほのかな提灯の灯り、

それでも闇の中ではまるで心の中まで照らし出してくれそうな暖かい光でしたね、

今歩いているのは、もう路地の奥まで知り尽くした銀座通り、

闇になりきれない夜の通りを歩く人の顔に笑顔はない、

祭りがハレなら、この冷たい光が照らし出した姿は日常ということなのかな、

どちらがいいと比べるものではない、多分、毎日祭りのハレが続いていたら

みんな疲れ果ててしまうだろう、

だから、日常の冷たすぎるほどの冷静さが我に返るためにはやっぱり必要なの

だろう。

冷静さを装った視線が四方から注がれてくる、

もしかしたら、この視線が我に返るきっかけを作り出してくれているのだろうか、

まるで夏が再び訪れたような灼熱の三日間は、もうこの夜の街の空気の中には

全く感じられない、冷たさは本物の秋の証に変わっていたんです、

もうこの場所で夜空を見上げて十年以上になるだろうピエロだけが

変わらぬ微笑を向けてくる。

「よう、元気だったかい」

冷たい視線の中から、暖かさを必死に探していたのだろうか、

いつもなら気づかずに通り過ぎてしまう街角で佇んでしまう。

そうか、視線ばかりが気になっていたから冷たさばかりを感じて

しまったんだ、

そう気づいた瞬間、走り去る車のタイヤの擦り音、忙しげに歩く靴音、

もっと耳を澄ませば、微かな呟きまで聞こえてくる、

夜の帳が明るさを遮ってしまうと、音だけが敏感に感じられるのです。

「カツン コツン カツン コツン」

日常が何の隔たりもなく通り過ぎていく。

視線を足元から見上げると、黒ずくめの外套の男と目が合った、

視線を外すことなく口元に小さな微笑、

「君もこの街が好きなのか・・・」

歩いているうちに、身体が街に馴染み始めている、

祭りの世界から抜け出すには、明るさを消し去った空間に身を置き、

そこから一気に歩き出してみるといい、

いや、そうでもしないと、祭りのハレから抜け出せなくなってしまうよ、

街には街の仕来りがある、そう、冷静さを取り戻せる冷気を感じる空間がある、

それは、百五十年かけて作り出した現代人のこころのよりどころなのかも

しれない、

 何時だって人間はないものねだり 

こころの中に現れては消えていく夢物語を繰り返すのです、

それがなければ、人生 生きてる張りがないですよ・・・