(二荒山神社の冬渡祭)

下野国宇都宮の二荒山(ふたあらやま)神社の冬渡祭に伺ったのは

二年前の十二月でした、

「家内安全」「無病息災」「火災防止」にご利益があると宇都宮伝統の夜祭り

として篤い信仰を集めているとのことで、厳粛な雰囲気の中で催行された

神輿渡御が暮れていく宵のなかでひときわ輝いておりました。

その時に知り合いになったWさんから、

「二荒山神社では数々の祭事がありますが、中でも10月末に行われる「菊水祭」は

それはそれは見事なものですよ」

と教えていただいておりましてね。

大榊や猿田彦、獅子頭などを先頭に、裃や紋付羽織を身に付けた50町内の代表が連なり、

錦旗や流鏑馬武者、宮司が、祭神である豊城入彦命を鳳輦にお乗せして町内を二日間に

渡って巡行するというのです。

相変わらずおっちょこちょいの祭り狂いのアタシは、

「あっ、今日は宇都宮の菊水祭の日だ!」

と気付くが早いか浅草から東武電車に飛び乗っておりました。

「冬渡祭」の夕暮れの中での美しい神輿渡御が印象に残っていたので、

夕暮れまでに到着できればいいだろうとわざわざ各駅停車の鈍行で旅を

楽しみながら窓の外の景色を楽しんでおりましたが、三回も乗り換えて

宇都宮に到着したのは、秋の陽がすっかり沈んでしまった

夕刻でした、

「二時間二十分も掛かるとは、新幹線なら京都まで行ける時間だったな」

などと独り言。

東武宇都宮駅からかって知ったる二荒山神社へ向かうが、

やけに町が静かじゃないですか、

「冬渡祭」では神輿が降りてきた神社の階段が真っ暗で誰も

おりませんですよ。

「あれ、日を間違えたかな・・・」

祭りの好きそうな老人を捕まえて

「今日は菊水祭ですよね」

「ああ、祭りは朝から山車や火焔太鼓が出てそりゃ賑やかだったよ、

三時頃には終わったよ」

ありゃ、夜祭じゃなかったのですよ。

急に持て余した時間をどうするか・・・

しかし、これからが旅好きの本領発揮ですよ、

アーケード通りでは、菊水祭より10月31日のハロウィンの方が人気が

あるのでしょうか、

アーケードの天井からは「宮ハロ」すなわち宇都宮のハロウィンの横断幕、

やれやれ、仮装行列の方が商売に結びつくということなんですかね、

商店街はこぞってハロウィンに熱を入れているようですな。

それにしても、急に吹き付けてくる北風はもう秋を通り過ぎて冬のようですよ、

上着の襟を立てて、ウロツイテもお腹が空くばかり、

「宇都宮といえば そうだ 餃子だ!」

さすがは餃子の街、店のメニューには餃子の種類が十数種類、

どれがいいかなんて素人にはわかりませんよね、

餃子筋金入りらしきのお隣のお客さんにそっと教えていただいた

お勧めを所望、

なるほどこれは旨いですな、

祭りはお目にかかれませんでしたが、旨い食にありつけただけでも

旅する価値はありましたよ。

のんびりと食事を終えて店をでると夜空にまだ少し丸みの足りない月、

「そうか、今宵は十三夜だった」

今年は中秋の名月も見られたし、祭りに間に合わなかったおかげで

「後の月」をひとり静かに眺めることができました。

転んでもただ起きないのが旅人というものですな。

帰りは、栃木での祭りの帰りに利用する東武特急スペーシアで

居眠りしながらの旅の途中でございます。

宇都宮にて