一陽来復とは

春の到来や凶事が去って吉事がふたたびもどって来ることをいう

のですね、すなわち陽の気が一番弱くなる日という意味で

冬至を表しているのです。

昼が短くて夜が長い日でもあるんですね、

「宵越しの金なんぞもたねぃや」

なんてハッタリで生きている江戸っ子も、実のところは縁起担ぎ

が大好きで、お天道様の力が一番衰えてくる冬至を迎えると、

何となくそわそわしてくるんでありますよ。

そんな江戸っ子の心理を上手く捕まえてくださったのが、

江戸は牛込高田の「穴八幡宮」で、

嫌なことが続いているヒトに、冬至が来たら

「さあ、これから良くなることが次から次とやってきますよ」

と『一陽来復』のお守りを売り出したんですね、

このお守りはね、いただいてきたままではご利益がありませんでね、

我が家に持ち帰り、

 冬至の日の夜中の12時か

 大晦日の夜中の12時か

 節分の日の夜中の12時

の三日間だけ、恵方の方向へ向けて壁のなるたけ高い位置にお奉りすると

いうお守りなんです。

みんな、11時59分59秒まで緊張してじっとお守りを手に

待っているんですね、

時報とともに、エイ!と気合を込めて壁に貼り付ける、

こんなに手間のかかるお守りはありませんでしょ、

このお守りは金銀融通のご利益があるともいわれているんですよ、

「宵越しの金なんぞもたねぃや」なんぞと息巻いていた江戸っ子が

大挙して押しかけたのがこの牛込穴八幡宮というわけ、

江戸っ子のこころの内なぞ、神様には見抜かれていたというわけですよ。

アタシもどちらかというと

「宵越しの金なんぞもたねぃや」の口なんですが、

「さあ、これから良くなることが次から次とやってきますよ」なんて

神様から耳元でささやかれれば、

「ちょいと、御参りに行ってくるか」

で、今は便利な地下鉄乗り換えてやってまいりました牛込穴八幡宮、

いやいやその人の多さにびっくり仰天、

境内に入るのに一時間、あの「一陽来復」のお守りをいただくのに

また一時間、昔も今も江戸っ子の腹のうちは何にも変わっちゃいませんですよ、

江戸っ子は口先ばかりではらわたはなし って鯉幟みたいなもんだとね。

やっとのことでお守りを押し頂き、巫女さんに

「御参りご苦労様でございます」なんて優しく声をかけられると、

「あの、もう三つばかり追加してください」

じつに、神社とは商売の原点でございますよ、

「商売繁盛」ってのはありゃ神社のことだったのか、なんて思っても

口には出しませんよ、相手は神様ですからね、

それでもニコニコしながら、参道を戻ると、「商売繁盛」「家内安全」の

縁起物があっちでもこっちでも大繁盛、

気がついたら、白南天の夫婦箸(難が去る)に、邪気祓いの塩袋、

一陽来復飴に開運カレンダー、難が消える耳かきなんていうのまで

抱えておりましたよ、

アタシも江戸っ子の端くれ、いいんですよ縁起担ぎはなんでも引き受け

ちまいますからね、そうそう今宵はゆず風呂に入らなくちゃね、と

三個¥500のゆずも六個いただき、コートのポケットの中までご利益で

膨れ上がっちまいましたが、気分も明るくなれたのですから、

神様のお告げは有難いものじゃありませんかね、

こうして寒さも忘れて意気揚々と帰路につく祭り旅の途中でございます。