地下鉄を降りると暖房の効いた地下道が

何処までも続いている。

いつも街並みを確かめながらの散歩が身について

いるせうか、この地下道はいったい何処へ行くのか

全く方向も位置も判らなくなってしまうのです。

それでも、かつて知ったる街のこと、此の辺りかと

階段を登って地上に出ると、

予想とは全く反対側の交差点にひょっこりと顔を出す。

「なんてこった」

信号の変わるのを待っていると、突然の寒風、

衝立のようなビルに囲まれた信号のある交差点の一点目掛けて

まるで悪意を含んだ冷たい風が吹きつける。

その寒いことといったら、利根川の土手の上より

布良の海風より

冷酷な冷たさなのですね。

温かな地下道に油断しておりました、

飛び込んだのは、確か有名なデパートだったはずのビル、

何時の間にか全国チェーンを張る電気屋

(今は本から食料品まで売るらしい)さんの日本総本部とか、

そうだった、このビルの入り口に鎮座していたライオンは

向島の三囲神社に奉納されちまったのだ。

まさに下克上

『祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり

 沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらはす

 おごれる人も久しからず ただ春の夜の夢のごとし

 たけき者もつひには滅びぬ ひとへに風の前の塵に同じ』

か・・・

せっかく覗いたのだからと店内をひとまわり

「うん、秋葉原より安い!」

よせばいいのに、若い店員さんに

「これ以上安くならないのだろ」

買う気を見せたのがいけなかった、

なにやら掌に隠れる秘密兵器のボタンを叩いて

「此処までなら」と視覚で見せ付ける。

気が付けば、そのカメラの箱を右手に持ってそのビルを

出ておりました。

「げに恐ろしきは○○デンキなり!」

どうするのさ、そんなにカメラばかり買って・・・

あのビルを乗り越えて吹き降ろす寒風に

身をチジメながら地下街に逃げ込む。

 気が付けばふところ寒しビル颪  散人

また 言い訳を考えなければ。

何て云われるかわかってるんですよ。

「今度は足の指で写真をお撮りになるのですか」