甲斐一宮町鎮座の浅間神社では毎年4月に

「大神幸祭(おおみゆきまつり)」

が行われているのです。

度重なる洪水に悩まされていた甲斐の国司は

朝廷に願い出て浅間神社の神輿を釜無川に渡御させ

「水防祈願」を願ったことに始まるといいます。

甲斐の一宮浅間神社のご祭神は、桜の精とも言われる 

『木花開耶姫命』

その女神様を神輿に移されて担ぐため、担ぎ手は男衆だけなのです。

女神様を驚かせてならないと、その男衆は衣装を女物の着物にし、

顔に化粧をして担ぐことが江戸時代から続いているというのです。

朝の早い時間に浅間神社を出輿された神輿は釜無川の土手を

一日がかりで渡御され、夕刻に浅間神社に戻られるということを

お聞きし、

実相寺の神代櫻の元を離れ、一路一宮の浅間神社へ、

どうやら、宮入り前に間に合ったようです。

噂にはお聞きしておりましたが、聞くと見るとは大違い、

境内に戻ってきた神輿と担ぎ手を目の前にして思わず

笑顔になるのですね、

江戸の祭りは、いなせに神輿を担ぎ、荒々しく振り回す

神輿振りが多いのです、

女衣装に身をまとい、神輿を担ぐ姿など初めて見る光景に

ビックリするやら、噴出すやら、でも、考えてみれば、

神様を喜ばすために神輿を担ぐのですからこういう方法が

あってもいいわけで、神輿担ぎがみんな同じでなければ

ならないことはないのですね。

にしろ担いでいる男衆が一番楽しそうじゃないですか、

こちらでは花棒の奪い合いなんていう乱暴な行いはないのです、

担ぎ手は次から次と交代していくのですが、その担ぎ棒に取り付く

相手も、女着物に化粧顔なんですから、こころも穏やかになろうと

いうものですよ。

境内で、一時間以上も揉み合いが続きます、

そのうち、役員方々からそろそろ宮入りの合図、

しかし、宮入りを拒むのはどこの神輿担ぎも同じなんですね、

「いいか、これでまた一年担げなくなるんだぞ」

若頭の檄が飛ぶ、

「ソコダイ! ソコダイ!」

の掛け声が繰り返し続く、

担ぐ足並みが他では見られない独特のもので、

肩を中心に、足を左右に時計の振り子のように振りながら

地を踏む仕草は土手を踏み固める名残でしょうか、

其の都度、神輿の重さが肩に食い込むに違いありません、

姿は女衆でも、心意気だけは男衆の誇りがあるのです、

いよいよ最後の盛り上がり、合図とともに神輿が本堂へ

駆け上がります。

その時、周りを埋めていた人々が神輿に飾られていたシデに

取り付き手に手に持ち去っていくのです。

きっとお守りになるのでしょうね。

無事、宮入りを果たしたみんなの顔が、やり遂げた誇りと自信に

輝いておりましたよ。

整列した若衆連に若頭から

「お前達はえらかった!」

この一言が、この祭りを支えているに違いありません。

そして、手打ちではなく、万歳三唱で締めくくられたのでした。

長い長い一日が無事終わりました、

朝から釜無川まで往復してくると五十キロを超える長帳場を

遣り通した気力と体力が若衆たちの自信に繋がることを

確信していた祭り旅の途中のことでありました。

すっかり夜も更けてしまいました、

桜と祭りの甲斐路の旅をそろそろ終わらせましょう、

雨で始まった甲斐路桜旅、それは桜と祭りを思う存分感じ取った

心豊かな旅となりました。

この国は大昔から災害とともに生きてきたのです、

祭りの原点は大自然への畏怖の念が込められているに違いありません。

そしてこの国は、心が自由で豊かになれる国なんですね、

もし、そのことを感じたいと願うなら是非旅をしてみてくださいな、

古いと思われていた文化は実は一番新しい生きがいになれることを

きっと見つけることができるでしょうから・・・