「おら、この土地を出て行く」

そうやって都会という名の欲望の街へ

我も我もとふるさとを後にして行った。

しかし、待っていたのは挫折と後悔、

そして夢を見失った男達はすべては金で買えるものを

覚えてしまった。

やっとこの国が近代化を目指していた時代に生きた

ひとりの男と女の物語です。

しかし明治という時代は身分制度が無くなったはずの

この国に、れっきとした公娼制度が残されていた。

人生に失望したその男は、その夢を女に求めた。

だれもその男の生き方を非難などできやしない、

通いつめた遊郭では、金が全てを支配した。

そんな巷間の中で、一途に生きる女がいた、

其の名を「さくら」と呼ばれていた。

「さくら」にもせつないが夢はあった、

しかし、その夢が現実になることなど無いことも

また承知の人生であった。

夢を無くした男と夢を諦めていた女が出会ったのは

運命としか思えなかった。

刹那の中でしか交わせない恋と呼ぶにはあまりに儚い二人の

物語は、女の死で終止符を打たれてしまう。

「いつか、生まれ変わることがあったら添い遂げよう」

と誓った願いも一緒に消えた。

残された男は、ふるさとに戻るとその女の為に

一本の桜を植えた。

「さくら」と名づけた桜は、やがて過ぎ去った月日を

重ねる度にその優美な姿を見せ初めていた。

あれから97年の時が過ぎた、もうこの桜を植えた男も、

その事情を知る人もみんな逝ってしまった。

ただ、その桜だけは春になると美しい花を咲かせ続けている。

「さくら」という名の桜 

いつしかその桜を見つめる人々はこう呼び始めた。

生まれ変わった二人が逢瀬を重ねる『願い桜』だと。

今年もその『願い桜』が満開の花を咲かせていた。

この物語はあくまでもフィクションです、

あまりにも切ない桜を見て描いた旅人の戯言とお聞き逃して

くださいな。

何だか本当のように思えてしまった桜旅の途中で出逢った

 さくら でございます。