人皇第十二代景行天皇四十一年(111年)創建というと

すでに千九百年の歴史を刻む大國魂神社とは、武蔵国の総社で

小野神社、二宮神社、氷川神社、秩父神社、金鑚神社、金鑚神社を

本殿の両側に奉祀して六所宮と呼ばれ、源頼朝、徳川家康も篤く崇敬したと

いう古社なのです。

ほとんど毎月のように祭祀が行われておりますが、中でも9月27.28日の

秋季祭は太々神楽の創立を起源とする祭祀で、神楽好きには見逃せない

祭礼なのです。

境内には参道の両側に行灯が点され、暮れてきた秋の宵を楽しむには

絶好の日和でございますよ。

創建千九百年を記念し新たに随身門が素木の美しい姿を現し、

参道を歩いているだけで清々しい気分に満ちてくるのです。

さてと、今宵の江戸里神楽奉納は山本頼信社中の神楽で、

いつも浅草や向島で見慣れている松本源之助杜中、若山胤雄社中とは

また違った舞が見られるかもしれないと期待に胸膨らませながら

やってきたというわけですよ。

ケヤキの老木に囲まれた境内で始まる時間を待っている気分は

いいものですね、

この奉納神楽というのは、神様のために演じるため、

それを見ている人間様のためにはあまり配慮はされないのが

普通でしてね、

演目も筋たてもわからないままじっと見つめるだけ

というのですから、大抵の人は途中で席を立ってしまう方が

多いのですよ

そりゃそうですよね、豪華な衣装を着けて登場した演者が何者なのか

も判らず、セリフもないのです、大拍子、太鼓、笛だけがその微妙な

心理状態まで表現しながら演者はゆったりと舞うのですから、

すぐに飽きてしまうのかもしれませんが、これもお能と同じで、

何度も見てくると、手の動き足のさばき方、

面を被った顔の向きでその表情までが哀しそうに見えたり、

怒りに見えたりするのですから、その面白さに魅入られた者は

祭りの中の里神楽を追いかけてしまうのですよ。

第一幕『禊三筒男式三番叟』

その中の、塩を撒く仕草のある『清めの舞い』、

そして、『喜びの舞い』を演じていただきました。

三番叟は良きことを寿ぎ、喜びを表す舞いなのでして、

衣装も背中一面に鶴が描かれた華やかなもので、

舞いも華やかに軽快に舞い踊る姿に、こちらまでニコニコと

笑顔になっておりました。

今回は事前に演目の紹介を受けることができましたので、

その舞が何を意味しているのかまで見分けることができました。

江戸里神楽とは、見れば見るほど奥が深く、面白いものですね。

第二幕 『阿波岐原』

古事記の身禊から誓約(うけひ)までを舞う物語です。

亡くなったイザナミの命に会うために黄泉国を訪ねたイザナギの命は

変わり果てたイザナミの命の変わり果てた姿に驚愕し、黄泉比良坂を

逃げ帰ってくるところから物語りは始まるのです。

首には玉の緒、腰には十拳剣を付けて現れたイザナギの命は

醜く穢れた国に行ってきたのだから身を清めなければと海にお入りに

なる、

「上流は流れが激しいし、下流は流れが弱い」と真ん中の瀬におりて

身をすすぐのです、その時生まれた神は

 左目を洗った時に現れた神の名は、天照大御神

 右目を洗った時に生まれた神の名は、月読命

 鼻を洗った時に生まれた神の名は、建速須佐之男命

イザナギの命は天照大御神に首にかけていたの首飾りの玉の緒を

下賜し、「高天原を治めなさい」と

月読命に「あなたは夜之食国を治めなさい。」と

そして建速須佐之男命には、「あなたは海原を治めなさい。」

命じるのでした。

これが三貴神誕生の物語なのです。

古事記の物語は何度も読んでおりましたので、その場面が目の前で

演じられるのですから、これほど楽しいことはございませんですよ。

こうして大國魂神社 秋季祭は静かな時を刻みながら更けていくので

ございました。